大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

釧路地方裁判所帯広支部 昭和35年(ヲ)4号 決定 1960年1月29日

申立人 角谷栄一

相手方 佐々木幸男

主文

本件申立は、これを却下する。

理由

本件申立の要旨は、

釧路地方裁判所帯広支部は、昭和三十五年一月十二日相手方の申立により、相手方の申立人に対する金十二万六千三百十円の求債金債権の強制執行として、申立人を債務者、北海道札幌市大通西六丁目三番地北海道緬羊株式会社を第三債務者とし、債務者が第三債務者に対し給料月額金二万円、販売歩合として受けるべき給与月額金二万円の各毎月継続的に発生する債権を有するものとして、毎月右合計金四万円の債権の四分の一づつを、前記執行債権の額に満つるまで差押えかつ相手方においてこれを取立てることができる旨の、債権差押並びに取立命令を発した。しかしながら、申立人が右第三債務者から受ける給与は、給料のみであり、それも月額金一万六千円にすぎない。よつて、本件差押並びに取立命令は、差押えるべき債権の数額を誤つており、その差額の限度で違法であるから、取消を求める。というにある。

当裁判所が、申立人主張のごとき債権差押並びに取立命令を発したことは、当裁判所に顕著な事実であるが、本件申立は、次の理由から、執行の方法に対する異議によつて主張することを許されない事由に基づくものと解する。

債権差押並びに取立命令を発するにあたつては、裁判所は、債権者の主張する差押えるべき債権の存否及びその数額を調査することを要しないのであり、その点は債権者において、取立命令を得て現実に第三債務者に対し取立をなすに際して、債権者と第三債務者との間で確定されるべき問題である。差押並びに取立命令の対象とされた債権が、存在せず若しくは執行債権の額に満たなければ、その限度で差押並びに取立命令は執行力をもたない、ということになるにすぎない。この理は、特定債権の一部につき差押並びに取立命令が発せられた場合において、その一部が全体に対する割合をもつて表示されている場合においても異なるところはない。即ち、第三債務者が債務者に対し現実に負担する債務額を基準として、差押並びに取立命令に表示された割合に応ずる債務額につき、その効力を生ずるものと解する。従つて、債権者において、右債務額に関し争うときは、取立の段階で確定を求めなければならない。要するに、債権差押並びに取立命令に表示された被差押債権の金額は、被差押債権の特定のための意味をもつにすぎないのである。

本件において、差押並びに取立命令に表示された被差押債権は、毎月生ずべき給料金二万円と歩合による給与金二万円の合計金四万円の債権の四分の一となつており、この金額は毎月金一万円に相当するところ、債務者は第三債務者に対して毎月金一万六千円の給料債権を有する、と主張しているので、第三債務者が右債務者の主張と同じく毎月金一万六千円の債務を認める場合、その範囲内にあたる前記金一万円を毎月債権者に支払をなすおそれがあり、そのときには債務者は本件差押並びに取立命令によつて不利益を受けることになるのではないか、という疑問も起らないわけではない。しかし、前示毎月金四万円の債権のうち、金二万円に歩合により受けるべき給与とされており、かような給与を支払うべき債務が第三債務者にない、とすれば、もとよりその四分の一を取立命令を受けた債権者に支払う必要のないことは明らかであるのみならず、たとえこれを債権者に支払つたとしても、その支払は債務者に何らの影響を与えるものでもない。また同様に、給料債権が金二万円でなく金一万六千円である、とすれば、第三債務者はその四分の一に当る金四千円を債権者に支払えば足り、これを超えて金二万円の四分の一に当る金五千円を債権者に支払つたとしても、その差額千円の超過支払につき債務者に対する関係で免責されることはない、と解すべきである。即ち、第三債務者が債権者に対していかなる支払をなしたとしても、債務者は第三債務者に対して、実際に存する給料債権の四分の三に相当する金額の支払を請求することができるものといわなければならない。即ち、本件差押並びに取立命令は仮りに申立人主張のように、被差押債権の金額に誤りがあるとしてもこれにより債務者は何らの不利益を受けるものではない。

以上のとおりであるから、本件異議の理由とする被差押債権の存否及び数額の争いは、債権者と債務者との間で解決されるべき問題に属し、執行の方法に対する異議において主張することを許されないものといわなければならない。よつて、本件申立は不適法として、これを却下すべく、主文のとおりに決定をする。

(裁判官 西村宏一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例